レーサーの特徴
エンデューロの世界において、女性ライダーの歴史を語る上で絶対に避けて通れない名前があります。それがドイツ出身のマリア・フランケ選手です。彼女のキャリアにおける最大のハイライトは、何と言っても2017年のFIMエンデューロ女子世界選手権でのシリーズチャンピオン獲得でしょう。
当時、女子エンデューロ界には絶対女王として君臨していたスペインのライア・サンツ選手という巨大な壁が存在していました。トライアル出身で卓越したマシンコントロール技術を持つライア選手に対し、マリア・フランケ選手はモトクロス出身という異なるバックボーンを持っています。彼女の武器は、荒れた路面でもアクセルを開け続けることができる圧倒的なスピードでした。
モトクロスで培ったスプリント能力と、攻撃的なライディングスタイルを武器に、彼女は絶対女王に真っ向から勝負を挑みました。そして2017年シーズン、ついにその牙城を崩し、ドイツ人女性として初となるエンデューロ世界チャンピオンの座に輝いたのです。テクニックのライアか、スピードのマリアか。この二人のライバル関係は、当時の女子エンデューロシーンを大いに盛り上げ、歴史に残る名勝負として今も語り継がれています。
戦績
世界タイトルを獲得するほどの実力者である彼女ですが、その凄さは女子クラスだけの話ではありません。母国ドイツで開催されているドイツ・エンデューロ選手権(DEM)においても、彼女は伝説的なパフォーマンスを残しています。
通常、女性ライダーはレディースクラスで競いますが、マリア選手はあえて男性ライダーが大半を占めるE1クラスなどの一般クラスにエントリーし、互角以上の戦いを繰り広げてきました。全日本選手権で言えば、レディースクラスのチャンピオンが国際B級やA級のライダーたちと混走し、ポイントを奪い合うようなものです。体格や筋力のハンデをものともせず、男性ライダーたちを追い回す彼女の姿は、多くの観客に衝撃を与えました。
また、世界で最も過酷なオフロードレースの一つと言われるISDEでも、その速さは際立っています。6日間走り続けるこの耐久レースにおいて、彼女はドイツ代表チームのエースとして活躍。2016年や2019年の大会では、女子個人クラスでの最速タイムを記録するなど、長丁場のレースでも集中力を切らさないタフネスさを証明しています。単に速いだけでなく、壊れない・転ばないというエンデューロライダーとしての総合力の高さこそが、彼女が「鉄人」と呼ばれる所以かもしれません。
活動
2017年の世界タイトル獲得、そしてISDEでの活躍と、順風満帆に見えた彼女のキャリアですが、2020年に一度大きな転機が訪れます。出産と育児に専念するため、現役引退を発表したのです。多くのファンが彼女の走りを惜しみましたが、彼女のレース人生はそこで終わりではありませんでした。
2023年、アルゼンチンで開催されたISDEにおいて、マリア・フランケ選手はドイツ代表チームの一員としてサプライズ復帰を果たしました。ママさんライダーとして世界の舞台に帰ってきたのです。ブランクを感じさせない走りで再び世界に挑む姿は、かつてのチャンピオンとしての威厳だけでなく、母としての強さも纏っているように見えました。
残念ながら復帰戦となった2023年のISDEではマシントラブルによりリタイアとなってしまいましたが、彼女が再びヘルメットを被り、スタートラインに立ったこと自体が大きなニュースとなりました。「結婚や出産を経ても、情熱があればトップレベルで戦える」ということを身をもって示した彼女の挑戦は、世界中の女性ライダーに勇気を与えています。かつて世界を制したスピードスターは、今や次世代のロールモデルとして、新たな伝説を紡ぎ続けているのです。

