レーサーの特徴
国内のモトクロスレースにおいて、女性ライダーたちが激しい火花を散らす「全日本モトクロス選手権レディースクラス」。数多くの強豪ひしめくこのクラスで、ヤマハの顔として長年トップ争いを繰り広げてきたのが本田七海(ほんだ ななみ)選手です。2025年シーズンからは、更なる高みを目指して男性ライダーとしのぎを削る「IB Openクラス」へと戦いの場を移しましたが、彼女のキャリアを語る上で欠かせないのが2019年シーズンの劇的なシリーズチャンピオン獲得でしょう。
大阪府出身の彼女は、幼少期からモトクロスを始め、2012年から全日本選手権へのフル参戦を開始しました。着実にランキングを上げ、トップライダーの仲間入りを果たしてからも、あと一歩のところでタイトルを逃す悔しいシーズンを経験しています。勝てるライダーと言われながらも無冠の時期が続きましたが、その苦悩が彼女を強くしました。迎えた2019年、TEAM KOH-Zに所属しYZ85LWを駆る彼女は、開幕戦から圧倒的な速さを見せつけます。
シーズンを通して安定した成績を残し、年間4勝をマーク。ライバルたちとの熾烈なポイント争いを制し、最終戦で見事に自身初のシリーズチャンピオンに輝きました。ヤマハのマシンを駆るライダーとしては2015年以来の快挙であり、表彰台の頂点で涙を見せた姿は多くのファンの記憶に刻まれています。このタイトル獲得によって、彼女は追う立場から追われる立場へと変化しましたが、そのプレッシャーさえも力に変え、長きにわたり常にランキング上位で優勝争いに絡む絶対的な実力者として、レディースクラスに君臨してきました。
戦績
本田七海選手のレーススタイルを象徴するのが、スタート直後の第1コーナーをトップで通過するホールショットの多さです。モトクロスにおいてスタートは勝敗の大部分を決めると言われるほど重要な要素。横一線に並んだライダーたちが一斉にアクセルを開ける緊迫の瞬間、彼女は抜群の反応速度とクラッチワークで集団から抜け出します。
身長160cmと決して大柄ではない彼女ですが、マシンのパワーを路面に伝えるトラクションコントロール技術と、荒れた路面でも体幹がブレないフィジカルの強さはトップクラスです。スタートで前に出て、自分のリズムでレースを支配する「先行逃げ切り」の勝ちパターンは、まさに彼女の真骨頂と言えるでしょう。また、雨が降ってコースが泥沼化する「マディコンディション」でも粘り強い走りを見せることが多く、悪条件下での対応力の高さも彼女の武器の一つです。
こうした強さを支えているのは、他ならぬ圧倒的な練習量です。「自分に自信が持てるまで練習する」と語る通り、日々のトレーニングで培ったスタミナとバイクコントロールの正確さが、レース後半の苦しい時間帯でもペースを落とさないタフな走りを生み出しています。長年愛用した2サイクルマシンのYZ85LWから、現在はパワフルな4サイクル250ccマシン「YZ250F」へと相棒を変え、よりダイナミックな走りで見る者を惹きつける躍動感に満ちています。
活動
国内での活動にとどまらず、海外レースへの挑戦にも意欲的です。アメリカのアマチュアモトクロスの最高峰レースである「ロレッタリン・アマチュア・ナショナル・モトクロス選手権」への参戦など、さらなるレベルアップを求めて海を渡る行動力も持ち合わせています。自分よりも体格の大きな海外ライダーたちと競い合う経験は、彼女のライディングにさらなる磨きをかけ、全日本の舞台でもその成果が存分に発揮されています。
また、現役のトップライダーとして活躍する一方で、モトクロスの普及活動にも力を入れています。ヤマハが主催する「bLU cRU(ブルー・クルー)」活動の一環として、ライディングスクールのインストラクターを務めることも少なくありません。子供たちや初心者ライダーに対して、優しく丁寧にバイクの楽しさや操作の基本を教える姿は、サーキットでの闘志あふれる表情とはまた違った一面です。
SNSを通じた情報発信も積極的で、レースの裏側やトレーニングの様子、愛車の手入れなど、ファンとの交流を大切にする姿勢も彼女の人気の理由でしょう。怪我による欠場やリハビリという苦しい時期も包み隠さず発信し、そこから這い上がって再び表彰台に立つストーリーを見せてくれる。そんな人間味あふれるプロフェッショナルな姿勢こそが、本田七海選手が多くの人々から応援される所以なのかもしれません。これからも日本の女子モトクロス界を牽引する存在として、彼女の挑戦は続いていきます。

